「タイカン」と「キョウカク」①

こんにちは。トレーナーの猿渡です。

 

「体幹トレーニング」や「胸郭の可動性」などと言った言葉は、スポーツの現場では特に、最近よく耳にするようになりました。今回は、なぜ体幹トレーニングをするのか、なぜ胸郭の可動域が必要なのか、ということをもう一度考えてみたいと思います。

①では主に「体幹」についてです。

「体幹」って何

「体幹」と言うと、単に「お腹」を指していたり、「お腹の筋肉」を意味していることもあるかもしれません。あるいは、「体幹」という言葉がトレーニングそのものを意味している場合もありますよね。

「体幹」という言葉自体は、おそらく概念的な物であり、ひとえに「これ」と言えるものではないと思います。

さてそんな中で、今回書いていきたい「体幹」というのは、ずばりお腹の奥の奥についてです。お腹の表面にある割れる筋肉(腹直筋)なんかよりもずっと魅力的な深部の体幹筋について触れていきたいと思います…

胸腔、腹腔

本題に入る前に、この後何度も出てくる、腹腔胸腔という言葉について簡単に確認したいと思います。

我々の胴体部分はしばしば3つのスペース(腔)に分けられます。

thorax abs pelvic

ざっくりと、肋骨によって囲まれる胸の辺りを「胸腔」、お腹の部分を「腹腔」、骨盤内部のスペースを「骨盤腔」と呼びます。これらのスペースには、それぞれ呼吸器系・消化器系・泌尿器系の臓器が収められており、生命維持に関わる重要な諸組織を、その周りの筋や骨格が覆っています。

「体幹」と呼ばれる部分はこの中の腹腔部分を指し、以下では主にここに焦点を当てて書いていきたいと思います。

なぜ「体幹」を鍛えるのか

なぜそれほど「体幹」が重要視されるのでしょうか。深部の筋肉を強化することに何のメリットがあるのでしょうか。

purpose

まず、その答えとして第一に考えられるのが、深部体幹筋の予測的な活動を促す、ということです。

我々が手足を動かす際には、その主動作筋(腕を動かすなら腕の筋肉、脚を動かすなら脚の筋肉)が働くより先に、深部の体幹筋が予測的に働くことがわかっています(2)。

例えば、下図の実験(3)においては、健常者において視覚刺激後に腕を素早く屈曲するときの体幹筋の活動をワイヤ電極を用いて調査しています。腕(肩関節)を屈曲するために必要な三角筋前部線維の活動開始点を基準に、体幹筋の活動が開始するタイミングを見てみると、主動作筋(三角筋)に先立って腹横筋中部・下部線維、内腹斜筋が活動を開始しており、またこれらの筋の活動は、動作が行われている間も働いていることがわかります。

shoulder flex
視覚刺激後に腕を素早く屈曲したときの体幹筋から得られる筋電図反応(3)

このような筋の予測的反応(活動)は、潜在意識下で行われており、これは体幹の対抗運動を最小限にするためのフィードフォワード・メカニズムよるものだと考えられています(3)。

体幹筋の予測的反応は、腹部の筋に限らず、腰部多裂筋においても観察される(2)と言われており、これが身体に課される様々な動揺に反応して活動することで、体幹部にかかるストレスを軽減し、腰部傷害を予防すると言われています。そして身体活動においては、一つ一つの動きに先立って、予測的に体幹筋が働くことによって、しっかりとした動作の支点を作るように機能しています。

すなわち、安全且つ、率の良いスムーズな動作を遂行するには、このような体幹筋の働きが不可欠だということです。俗に「体幹が強い」と言うと、「=当たりが強い」というようなイメージを持つ方も多いと思いますが、体幹を強化するということは、そのような静的な強さのみならず、動作全般の強さ(→ムダのない動き、スムーズな動作がパフォーマンスUPにつながる)を高めることにも通じているのです。

purpose2

深層の筋と浅層の筋

さてしかしながら、深部体幹筋の働きは重要であると同時に、これらの筋は機能が低下しやすい筋でもあります。

abs
腹部体幹筋の配列
es
背部体幹筋の配列

体幹筋の中でも深層に位置する腹横筋(Transverse abdominalと多裂筋(Multifidus)は、しばしばローカルマッスル(Local muscles)と分類され、特に脊椎分節運動抑制(腰部分節間の安定性に貢献)への関与や固有受容器としての役割(圧変化やストレス・刺激を察知)が報告されています(4)。そんなこれらの筋ですが、腰痛患者においては機能低下が生じている可能性が高く(腰痛⇔機能低下)、先ほど挙げたような、腕の屈曲動作に伴う予測的な活動にも遅延が生じるとも言われています。

体幹のより深い位置で、安定性を生み出すローカルマッスルに対して、これらの筋よりも浅層に位置する腹直筋や外腹斜筋、脊柱起立筋などは、グローバルマッスル(Global muscles)と言われており、基本的にこれらの活動はその支配領域に動きを生み出します。

本来、身体動作に先立って体幹部を「固定する」べきローカルマッスル(腹横筋・多裂筋)の働きが低下すると、「動かす」働きを持つグローバルマッスル(腹直筋・脊柱起立筋など)が固定・安定させる役割を担うことで代償しようとします。

こうした代償が繰り返され、身体動作の中で習慣化されると、グローバルマッスルの過活動とローカルマッスルの萎縮を加速させてしまうことになります。こうなると、動きに不要な予備動作が見られたり、支点が作れないことで主動作筋の出力が低下したり、動作中にかかるストレスが増大したり、と言ったことが考えられます。

local vs global
Local muscleの機能低下はGlobal muscleの過活動を誘発する.

このような現象は、スポーツ選手でも多く見られるような印象があります。スポーツ選手のように、繰り返し繰り返し競技動作を行い、その身体の使い方が染み付いている人にとっては、そもそもローカルマッスルをONにする感覚がわかっていないことも多いです。

ですから、深部にあるローカルマッスルと呼ばれる筋たちのスイッチを、しっかりと入れてあげる(ONにし易くする)ということも、「体幹」を鍛える大きな意味であると思います。そうすることで、結果的にパフォーマンスアップに繋がる可能性が出てくる訳です。

 

「体幹トレーニング」

さて、「体幹トレーニング」を行う意味を確認したところで、具体的にはどの筋肉を鍛えていくのか、ということをもう少し詳しく見ていこうと思います。

これまでに述べてきた通り、俗に言う「体幹トレーニング」においては、腹横筋や内腹斜筋、多裂筋と言った、より深部にある筋肉にフォーカスしていることが多いです。

また、これらの筋に加えて、胸腔と腹腔の境にあり、主に呼吸筋として働く横隔膜(Diaphragm)と、排便などで踏ん張るときに活動するような骨盤底筋群(Pelvic floor muscles)の働きが重要だと考えられています。

「体幹トレーニング」というと、お腹の奥にある腹横筋だけがピックアップされがちな印象がありますが、実際には、

腹側および側面を覆う腹横筋(+内腹斜筋)

背側で脊柱に密着する多裂筋

腹腔に上から蓋をする横隔膜

腹腔を下から押し上げる骨盤底筋群

core stab
4つの筋の共同収縮が「体幹の安定性」をもたらす.

これら4つの筋の協働があってこその、「体幹の強化」につながる訳です。

4つの筋の共同収縮によって、体幹部に適度な剛性をもたらし、四方から腹部が圧迫され、腹腔内圧が高まることによって、いわばコルセットを着けているような状態になり、これが脊柱(特に腰椎)の安定化に繋がります。また、これら体幹筋の働きによる、適切な腹腔内圧の調整によって、運動中の内臓の過剰な動揺をコントロールすることができる(5)とも考えられています。運動中に起こる「脇腹痛」の原因の1つとして内臓の過度な動揺が考えられていますが、体幹を安定させることでこういうことも防げるかもしれないということです…

仮に、この筋のうちいずれかの収縮が不十分だとすると、腹腔内圧を高めることは困難になり、目的とする利益は得られません。ただ単に「お腹に力を入れる」だけ、呼吸を意識するだけではダメと言う訳です。ですから、効果的に「体幹」をトレーニングしたいのであれば、お腹・背中・お尻・呼吸と、姿勢や意識の向け方にも注意を払う必要があります。ひとえに「体幹トレーニング」と言っても、そう簡単に正しくできるものではないんですね…。

stab vs instab
どれか1つでも筋の収縮が不十分だと、腹腔内圧は上昇しにくくなる.

 

 

腹腔内圧の調整に欠かせない「横隔膜」

これらの「体幹筋」の中でも、腹腔内圧をコントロールするのに大きな役割を担っているのが横隔膜だと言われています。

remind respi
胸腔と腹腔を隔てる横隔膜は、それぞれの容積・内圧を変化させる主要因となる.

横隔膜は体幹(腹腔)と胸郭部を隔てる、伸縮性の蓋のようなものです。胴体を1つの筒として考えると、横隔膜が下降すれば腹腔の容積が減少(内圧は増加)し、一方で胸腔の容積は増加(内圧は減少)します。横隔膜が上昇すればこれと逆のことが起こります。そしてこの横隔膜の活動は呼吸(Respiration)によって起こるため(60~80%を横隔膜が担う(2))、我々が無意識で行っている呼吸の最中にも、胸腔と腹腔の容積(内圧)変化は繰り返されていることになります。

これが胸腔では、横隔膜(+斜角筋群、肋間筋)の活動による胸腔内の容積変化が外気との相対的な圧変化を生み出し、呼吸を可能にし(下図)、一方これが腹腔であれば、横隔膜の働きによる内圧の上昇が体幹の安定性をもたらす1つの要因となる訳です。

respiration mechanism
「空気は高圧の方から陰圧(低圧)の方へと流れる」という基本的な原理と、空気のような気体は、容積が増えれば圧力が減り、容積が減れば圧力が増える(ボイルの法則)という関係からなる空気の流入出.

 

初歩的な「体幹トレーニング」=腹式呼吸

「体幹トレーニング」の中でも極めて初歩的なものとして、しばしば行われるのが腹式呼吸(6)です。腹式呼吸では、体幹筋の中でも特に横隔膜の働きを促通するものとして扱われています。

腹式呼吸では、腹壁の拡張運動を意識的に行い、吸気時には腹壁の拡張、呼気時には腹壁の縮小を強調して行います。このように、強制的に腹腔の容積変化(→内圧変化)を起こすことで、蓋の役割を持つ横隔膜の、下降/上昇(収縮/弛緩)をさらに誘導する狙いがあります。

visceral breathing
胸部をなるべく動かさず、腹部の拡張/縮小を強調する.

しばしば腹式呼吸と対として扱われるのが胸式呼吸ですが、この方法では、横隔膜をはじめとする主要な呼吸筋による胸郭の拡張/縮小よりも、胸を大きく開いたり、肩を上げるような形で胸腔容積を拡げて呼吸を行います。胸式呼吸が習慣化されると、通常呼吸には関与しないアウターマッスル(グローバルマッスル)が過活動を起こし、本来の呼吸筋の働きが弱化していく可能性があります。

ですから、腹式呼吸の際には、しっかりと肩を抑えてできるだけ胸を開かないようにし、お腹の動きに沿って横隔膜を腹腔に押し込んでいくようなイメージ(吸気時)で呼吸を行い、アウターマッスルによる「外側」からの容積変化ではなく、横隔膜による「内側」からの容積変化を意識付けすることが大切です。

腹式呼吸+α=「ドローイン」

先ほどの腹式呼吸を発展させたのが、少し馴染みのある「ドローイン(Drawing-in)」というエクササイズになります。

ドローインエクササイズは、横隔膜が主導する呼吸のサイクルの中で、他の「体幹筋」を持続的に活動させるトレーニングと言えます。通常の呼吸の中では、横隔膜の弛緩-収縮と同様に、「体幹筋」も弛緩-収縮を繰り返しますが、ドローインでは横隔膜を含む「体幹筋」が、休むことなく働き続けることが求められます。

このように、「体幹筋」が収縮-弛緩するのではなく、張力を保ちながら短縮性収縮(Concentric-contraction)と伸張性収縮(Eccentric-contraction)を繰り返すことで、適切な腹腔内圧を呼吸中(ひいては動作中)に維持できると考えられています(5)。

(*多裂筋については、その働き自体が腹腔内圧の調整というよりも、直接的に脊柱の安定化に寄与しているため今回の話の中では除外しています。)

respi core
「体幹筋」は呼吸サイクルの中で短縮性収縮と伸張性収縮を繰り返す.

腹式呼吸では、特に吸気の際に、腹部の拡張を強調することで、横隔膜の働きを誘導していましたが、「ドローイン」になると、その腹部の拡張を、腹横筋と骨盤底筋群の伸張性収縮によって抑えるようなイメージになります。そうすることで、横隔膜の収縮による下方向の圧(細赤矢印)に対して、逆方向への圧(太青矢印)を発生させ、この相反する圧によって横方向への圧(細青矢印)を生み出します。この四方への圧力は腹腔内圧を上昇させ、さらに横方向への圧は下部胸郭(肋骨)を拡張させ、横隔膜の働きを一層促進させます(5)。

一方、呼気の際には、横隔膜は弛緩(伸張性収縮)し、腹横筋と骨盤底筋群は短縮性収縮を起こします。ゆっくりと細い息を吐ききっていくことで、腹横筋まで刺激が入りやすくなり、さらに腹壁を縮小させることができ、これに骨盤底筋群の収縮(お尻をギュッと締める)も合わさることで、腹腔容積は減少し高い内圧が維持されます(2)。

(文献(5)では呼気時に横隔膜の伸張性収縮とも記載してあり、「呼気においては横隔膜の伸張性収縮が大事」と書きたいところだったのですが、横隔膜の伸張性収縮はどうにもイメージしにくかったので、ここでは書きませんでした…)

 

respi core tr
「ドローイン」に限らず、「体幹トレーニング」では必ず呼吸を意識する.

上に書いたような、呼吸による横隔膜の活動と、体幹筋の継続した活動による腹腔内圧の上昇は、「ドローイン」エクササイズに限って意識するものではなく、その他の「体幹トレーニング」と呼ばれるエクササイズでも共通して言えることです。

エクササイズのフォームばかりに気を配りすぎて、息を止めてしまっていたりとか、呼吸を大げさにしすぎて胸式呼吸になってしまっている、というのはよく見受けられるケースです。動きの少ない「体幹トレーニング」ですが、意識する点はたくさんあるということに気づかなくてはなりませんね。

→→→「タイカン」と「キョウカク」②


1) Richard L.Drake, A.Wayne Vogl, et al:グレイ解剖学 原著第2版. エルゼビアジャパン株式会社, 2013

2)  D.A.Neumann:カラー版 筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版. 医歯薬出版株式会社, 2013

3) Donna M. Urquharta, Paul W. Hodges, et al:Postural activity of the abdominal muscles varies between regions of these muscles and between body positions. Gait and posture, 2005;22:295-301

4) 鈴木 哲, 平田 淳也, 他:不安定面上座位における体幹筋活動と重心動揺との関係. 理学療法科学, 2009;24(1):115-119

5) Matt Wallden:The Diaphragm – More than inspired design. Jurnal of bodywork and movement therapies, 2017;21:342-349

6) 千住 秀明, 神津 玲, 他:慢性閉塞性肺疾患(COPD) 理学療法診療ガイドライン. 日本理学療法士協会診療ガイドライン作成委員会:2011;12:956-1003


 

2 comments

Add Yours
  1. 「タイカン」と「キョウカク」③ – Get on to the DREAM

    […] 呼吸筋にアプローチできるトレーニングやエクササイズとして考えられるのは、体幹についての話(「タイカン」と「キョウカク」①)で挙げたような腹式呼吸やドローインエクササイズではないかと思います。(無論、競技練習を繰り返すのが一番手っ取り早いのは確かですが…) […]

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