②では、このトロント滞在のもう一つの大きな目的であった、Toronto FCでの経験について主に書いていきたいと思います。
Raptorsの時とはまた違って、こちらは実際の“現場”に立ち入ることができました。それは自分にとってとても刺激的なことでしたし、今の自分を省みるきっかけにもなりました。
カナダのプロチームで働く日本人therapist
Toronto FCでAssistant athletic therapistとして働く宮内翔平さん。宮内さんの存在を知ったきっかけは様々ありました。
まず初めのきっかけは、3年前に行ったカナダ・カルガリーです。

この時の主な目的は、カルガリーにあるMount Royal University(MRU)のAthletic therapyのプログラムについての情報収集だったのですが、まずこのMRUは、日本人でなっている人は10人にも満たない、カナダのAthletic therapist(AT)全員(?)の出身校であり、宮内さんもその一人です。

滞在中に、プログラムの主任でもあるMark教授や他の日本人ATの方からも何度か宮内さんの話が出てきていたので、その頃から存在は知っていました。
さらに宮内さんは、私の大学時代のゼミの教授である泉先生と同じ、筑波大学の大学院を出ていることもあり、先生からもカナダでトレーナーとして働いている日本人がいる、ということを聞いた覚えもあり、以前よりお会いしたいと思っていました。
そんなこんなで、①で書いたように、Raptorsの話もあったので、その際にアポイントを取れないかと直接連絡をさせていただき、実現したものでした。
Toronto FCへ
Toronto FCは、Major League Soccer(MLS)に所属するカナダのチームで、カナダ国内大会では最多優勝回数を誇り、2017年にはMLSでチャンピオンシップを獲得するなど、こちらもサッカー好きなら知らない人はいない、ビッグクラブです。

宮内さんとお会いしたのは滞在3日目で、この日は専用練習場にお邪魔してひとまずスタッフ方に挨拶をさせていただきました。この時に、施設も回らせていただいたのですが、規模で言えばこちらもRaptorsの専用施設と変わらないくらいで、とても充実していました(選手がいたことやチーム情報の掲示が多かったこともあり、施設内での写真は自粛しました)。
Toronto FCに訪れて一番感じたことは、様々なことがしっかりシステム化して行われているというところです。
例えば、
・タブレットでのコンディショニングチェック
・定期的な筋力評価(ちょうど内転筋のアイソメトリック筋力の測定を実施していました)
・練習前後のサプリメント補給
・選手ごとの練習前のプレエクササイズ(リハビリやコンディショニングのための)
・ウェイトの挙上記録(記録してあったのはpull upやCMJなど比較的簡単に相対評価できるものでした)
・ポジションやパフォーマンス要素ごとのウェイトメニュー など。
これらはタブレットへの入力や、貼り出してあるホワイトボードに選手が直接記入したりと、誰が何をやっているのか、簡単に可視化できるようになっていました。
この他にもメディカルな部分では、さすがサッカー、GPSもしっかり録っていて、日々の記録はトレーナーのオフィスにも書き出されていました。また、コンディショニングチェックは、項目によってボーダーが定められていて、その数値を下回ると、メディカルスタッフとコーチングスタッフにalertされ、個別で追加のチェックがなされるようになっていました。
ウェイトのメニューやプレエクササイズのメニューは、ウェイト場内に大きく見えるように書かれており、選手たちは一度レクチャーされたものを、次回からはそのメニューを確認して各自で行っていました。
練習時のサプリメント補給は、事前に目的ごとにガイダンスされていて、選手たちが自分で選択して摂取していました。そしてこれは、驚いてはいけないところだったのかもしれませんが、プロテインも自分でシェイカーに入れて、飲み終わったらちゃんと自分で洗って乾かしていました。このレベルの選手たちが、です。
でもこれ、普通に当たり前ですよね。でも、うちのチームでは、もしシェイカーに粉を入れてちゃんと用意しておかなければ、「何で用意してないの?俺のプロテインは?」と言われるぐらいです。完全に感覚が麻痺してしまっていました。私自身が環境に甘えてしまっていました。反省です…
システム化するのは、面倒なことかもしれませんが、一度しっかりパッケージ化して、実用し、チームに浸透すれば、絶対に選手にとっても我々メディカルスタッフに取ってもプラスに働くと思います。
宮内さんもおっしゃっていましたが、北米はシステム化するのが上手い。そして日本はそれが苦手。でも個別でしっかりと選手に向き合うのは日本人の方が優れているところだと思います(故にサービスに繋がってしまうのかもしれませんが)。
だから、システム化した上で、細かいところは個別に対応できれば一番いいに違いない。ここではそれがしっかり実践されていると感じました。
丸1日練習を見させていただけることに…
皆さんのご厚意で、次の日もう一度施設に伺わせて頂けることになり、さらに1日練習を見学させていただけるとこになりました。

この日は、朝7時30分から練習場に入り、いつも選手たちが来る前に行っているという、チームスタッフたちのトレーニングから参加…!
やるとこは人によって様々ですが、コーチングスタッフからメディカルスタッフ、そしてマネジメントスタッフたちが朝からトレーニングに励んでいました。この習慣はとても素晴らしいと思いましたし、“指導者たるもの実践者であれ”と言う言葉を思い返さずにはいられませんでした。
実践者であるということは、単に選手に教えるメニューを予め行うという事ではなく(これは当たり前)、頑張ることを知っている、追い込むことを自らが一番わかっている、ということだと思います。
それだけの設備があるから出来る、とも言えるのかもしれませんが、こういう習慣は是非とも取り入れたいものです。
ちなみに私は、宮内さんのトレーニングメニューを一緒にやらせていただいたのですが、これがまたキツくて、、、 私が本当にオールアウトしそうでヘトヘトでランをしていたら、Director of sports scienceであるJimさんに後ろから煽られ、死にそうになりました。 Jimさん、私よりも相当年上だと思うのですが、相当凄かった…
一時間ほどのトレーニングの後、スタッフ陣はミーティングがあり、その間に選手たちも練習場に来始めて、来た選手から食堂で朝食を摂り、各自でDaily checkを行い、ミーティング、練習前の準備、練習といった流れで進んでいきました。
“プロ”の仕事を感じる
選手たちのミーティングが終わり、練習前の準備が始まると同時に、メディカルスタッフ(コンディショニングスタッフ)が慌ただしくなる時間が始まります。この時、私はトレーナールーム内で見学させていただいていたのですが、学生時代、富士通のアメフトに初めて帯同し、ただただ見ていた自分を思い出しました…。
メディカルスタッフは、Jimさんをトップに、Head ATのCarmeloさん、そしてAssistant ATの宮内さん、Massage therapist/AcupunctureのMarceloさん、Strength & Conditioning coachのTomさん(特にこの方々にお世話になりました…)などが筆頭となって選手たちのコンディショニングに関わっているようでした。
見ていると、前回私がカルガリーに訪れて、ATプログラムについて伺ったときに受けた印象と同様に、素早い正確な評価→トリートメント/トレーニング処方という流れがしっかりと確立されている、と強く感じました。練習前のトリートメントや、テーピング、そしてプレエクササイズなどは順序良く実施、指導されており、スタッフ一人一人はそれぞれ違ったスキル(長所)を持っていて、それを存分に活かしながら仕事をしている印象を受けました。
確かにそこには、“自分にしかできない仕事”をするプロの姿があって、RaptorsのBobbyさんがおっしゃっていた言葉をまた私の中で反芻しました。
また、選手がいなくなった時間などには、スタッフたちがよくコミュニケーションを取っていて、お互いに手技を行いあっていたり(この時はMarceloさんが宮内さんに鍼を施していました)、一つの事例について議論していたりと、お互い異なる長所を持ったプロたちが、しっかりとKnowledge translationを行っている姿が印象的でした。
何を行っているのか質問をしてもみなさん快く説明してくれ、私自身も実際みなさんが行っている手技から学ぶことがとても多かったです。何より、私が自ら学んで“(ただ)知っている”ことを、ここでは選手に対し実際に“処方している”のを目の当たりにし、ただただ感心してしまったのと、自分自身の力不足を同時に感じました。
私自身ポリシーとして、完全に“自分のモノ”にしていないことは、知ったふりもしたくないし、選手に試してみるようなことはすべきではないと思っています(この仕事でお金をもらうようになって尚更)。でも、“知っている”ことでも、やってみないことにはいつまでたっても“自分のモノ”にはならない訳で、つまりは今の自分は成長が止まっていると思ってしまいました。
環境のせいにはしたくありませんが、環境を選ぶ(選べるだけの能力をつける)ことは自分の成長にとっては必要なことです。宮内さんも、「その点今の環境はとても刺激になるし、様々な新たな視点を与えてくれる」、と後に話した際におっしゃっていました。また、「まずは知らないことには何も始まらない。今は知っているだけでも全然いい。その先は手を動かせば自然と身についてくるから」、とも言ってくれました。
そう考えると、私が初めて現場を見学した富士通のアメフトの時は、ただただやることを見るだけでしたが、今回は自然と、何でそうやっているのか、次にどうするのか、などを考えながら見ていたのは確かです。「知らない」よりは「知っている」方が良いに決まってます。今は貯金をする時期と考え、また違う環境に身を置けた際には、その貯金を存分に叩いて知識を“自分のモノ”にしていこう、宮内さんの言葉はそうも思わせてくれました。
またこんな思いと同時に、自分がやってきたことは間違いではなかったんだ、と思えるきっかけもありました。
例えば、日々のコンディションチェックとその分析、練習強度のデータ収集と練習プランへの助言、選手ごとのプレエクササイズの考案と実施、適切なサプリメントの供給など、Toronto FCほどお金はかけられてはいませんが、私でも実際に行っていることもいくつかありました。
やはり、環境は違えど、様々なことに嗅覚を持ち続けることは大事なことで、その中で試行錯誤を繰り返すことは、必ずこの先の自分の成長につながると思います。宮内さんも、アンテナを張り続けることは大切だ、とおっしゃっていましたが、全くその通りです。
“Real Professional”に触れたTorontoでの5日間
Toronto FCでの見学は、プロの現場を窺えた、そして自分自身を省みるきっかけになった、という点で自分にとって非常に大きな経験になりました。

結局、この次の日の滞在最終日には、ホームスタジアムにもお招きいただき、中の施設やフィールドにも入れさせてもらいました。Jimさんが、朝のトレーニングを一緒にしてから私を気に入ってくれたらしく、本当に良くしてもらいました。終始「Who is faster!?」と言われ続けましたが…(私がランでJimさんに負けたので…)
本当に、今回の見学に協力していただいた宮内さんはじめ、スタッフの方々には感謝しかありません。
このToronotoでの5日間、全く観光する時間はなかったですが、何にも代え難い特別な経験をさせていただきました。“プロの組織”、“プロの選手”、“プロのトレーナー(セラピスト)”に触れることができ、確実に自分の中で何かが動きました。
この機会を与えてくれたみなさん、本当にありがとうございました。
最後に、これはRaptorsのメディカルスタッフのデスクです。
RaptorsのHead trainerのScottさんにお会いした際、Bobbyさんが冗談交じりに「Shotaは将来ここでTrainerしたいんだって」と私を紹介してくれたんですが、100%社交辞令でしたが、「待ってるよ。いつか一緒に働こう。」そう言って握手をしてくれました。
こんなのは冗談だってことは、百も承知ですが、私はこれを本気で、本気にします。
この組織の一員になる。Raptorsのメディカルスタッフは、NBAでも有数の実力だと言われています(だからLeonardも移籍を決めたとも言われる)。そんな組織の一員になれたら、尊敬してやまない選手やスタッフの中で働けたら。
いつか、このデスクが自分の居場所になるよう、やることをやっていく。
Toronto Raptors: https://www.nba.com/raptors/
Toronto FC: https://www.torontofc.ca/
[…] (②に続きます→TORONTO②) […]
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[…] そんな反骨生活2シーズン目、私の働きを認めてくれた当時のアメリカ人のヘッドコーチに将来について話す機会がありました。「NBAに行きたいんだ」という思いを伝えると、RaptorsのGMと友人であったコーチがGMと私をつなげてくれました。そこからそのシーズンのオフに、カナダに行くことを決め、もう一度カナダのATプログラムについても調べなおしていました(実際現地でいくつかの大学窓口も回りました)。その時、Raptorsと同じくトロントのメジャーリーグサッカーのチームであるTorontoFCでAssistant ATをしている宮内さんに連絡を試み、トロントに行った際に「カナダのATがスポーツ現場でどのように働いているのか」を見るために、チーム練習を見学させていただけることになりました(→TORONTO①,TORONTO②)。 […]
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