キューイングとリズム

新型コロナの影響による行動制限が徐々に緩和される中、仕事形態も徐々に戻り始めています。

現場指導に戻れることが嬉しいと感じる一方で、オンラインの指導機会が増えたことで、再認識できた大切なこともありました。この“気付き”を無駄にせず、これからの運動指導に確実に活かしていきたいと思っています。

オンライン指導で気付いたこと

運動指導におけるオンラインとリアルタイムの違い。指導側・指導を受ける側両方に言えることは、情報の受け取り口が少ないということです。

対面指導では、実際に触れたり、動きを誘導したり、近くでデモを見せたり、様々な角度から動作を見たりできるのが当たり前でしたが、オンラインではパソコンの画面上、2Dでしか捉えることができません。さらに言葉無しで感知できる“空気感”のようなものも、重要な情報元の1つでしたが、それも画面越しでは限りがあると感じました。

オンラインのように、情報の受け取り口が限られている中でも、オフライン(対面指導)と同等の質で行えること、それは“声かけ”(キューイング:Queing)です。もちろん先ほどの“空気感”を挙げれば、機械を通した音声とは少し違いはあるかもしれませんが、声のかけ方や言葉選びなどは、どちらの状況でも工夫して取り組むことができると思います。

オンラインにおいては、限られた中で唯一有効に使える“声かけ”という指導スキルを、存分に活かして指導に当たることが重要だと言えます。

声のかけ方‐注意の集中‐

「注意の集中:Attentional focus」とは、運動スキルの習得のために指導者が教示や指示を与える際、(何らかの対象に)意識的に注意を向けさせる努力(1)と定義されています。つまり、“声かけ”によって実践者に対して「どこを意識するのか」を示す術の1つです。

「注意の集中」は大きく2種類に分けられ、1つが内的集中:Internal focusといって身体動作に直接関係する身体の“内部”に注意を向けさせるもの、もう1つが外的集中:External focusといって意図する動作の影響や結果などの“外部”に注意を向けさせるものがあります(1)。

これら教示方法の違い(声のかけ方)によっても、パフォーマンスやスキル習得の度合いに影響を及ぼすと考えられており、中でも、注意を身体内部に向けるような内的集中よりも、動作の結果へ注意を向ける外的集中のほうが運動スキルの習得を促進する可能性があると示唆されています(1,2,3,4)。

外的集中によって動作目標(ゴール, 結果)をはっきりと示し、「なぜをそれをやるのか」という動作の意図に合ったスキル習得を促す。また、結果からそこに至るプロセスを、実践者自身が体現することで自発的な思考を促進させ、そこで得たスキル習得の効果は、より長い期間持続すると考えられています(1,2,3)。

さらに、スキル獲得への試みの中では、指導者に依存するような受動的な学習よりも、自ら考えて行う能動的な学習の方が長期持続的な結果を生むと言われています(2,3)。

我々指導者のゴールは、選手やクライアントを依存させるのではなく、自立させること、自ら考えて実践できるようにすることです。ですから、無意識に考えるきっかけを与えるような、それでいてスキル獲得がし易いような“声かけ”を行うことができれば、間違いなく「合目的的」で「自発的」で「長期的」な効果を生むことにつながると考えられます。

外的集中による声かけ

「外的集中」を使った“声かけ”には、固定点までの距離を意識させる「距離への集中:Distance」と、固定点への方向を意識させる「方向への集中:Direction」と、説明によって意識させる「説明への集中:Description」の3つがあり、それぞれの頭文字を取って「3D」と言われています(1)。

中でも、「距離への集中」においては近距離よも遠距離、「方向への集中」においては離れる意識よりも向かう意識を想起させた方が効果的であると言われています(1)。

ただし、どの教示方法を用いるにせよ、教示の有効性は個人間でも異なることがあるため(1)、テンプレートのように当てはめるのではなく、まずは対象となる選手やクライアントへの理解と、動作そのものへの理解を深めることは、指導者としての基本と言えるでしょう。

比喩表現‐オノマトペ‐

3つめのDである「説明への集中」には、動作そのものに繋がる「動作を示す動詞」による表現と、「比喩」による“例え”の表現が含まれています。

私自身、高齢者や育成年代の指導に携わってきたため、この“例え”の有効性については身をもって実感しているところです。例えを与えて瞬時にゴールをイメージさせることは、教示において非常に大きな手助けとなります。

動作を音で表現するオノマトペ:擬音語もその一つと言えるでしょう。その動作によって実際に音が発生していない場合でも、この「音のイメージ」と「動きのイメージ」がリンクするオノマトペを使うことは、その言葉に重要な意味や特徴を加えてくれます(1)。

オノマトペを多用する指導者として、個人的に真っ先に思い浮かぶのが長嶋茂雄さんです。言葉の表現や指導の中でも擬音語を豊富に使っていたようですが、外から見ると「何言ってるか全然わからない」といじられるようなことも多々ありましたね(笑)

実際、オノマトペのような比喩表現の伝わり方には、対象となる選手やクライアントのバックグラウンドや文化が大いに影響する(1)と言われています。ですから、野球に親しみのない人には「全然イメージが湧かない」と思われても致し方ないのかもしれません。

指導者としても、これだけオノマトペを多用すると「面白い」とも思ってしまいますが、それと同時に「しっくりくる」感覚があるのは確かです。対象や運動を適切に理解し、その層に合った比喩表現を用いることは、スキル習得を促進するために必要な技術の1つであることは間違いありません。

3Dとリズム

これまでの「3D」以外に、身体外部に注意を向ける教示方法として、「リズム」を用いる指導者もいるでしょう。

リズムとは、「運動/感覚事象によって区切られた時間間隔のパターン」と定義されており(5)、動作を再現的で周期的な事象として時間の流れを細分化し、順序立てる作用を持つ(6)と言われています。また、指導場面においては、手拍子や声かけ、規則的な電子音といった外部からのリズム刺激は、運動の手がかりを提供し運動抑制に影響を与える(6,7)と言われています。

しかし、刺激の間隔が1800ミリ秒(1.8秒)を上回ると、次の刺激を予測することが難しく、運動に同期しにくくなると言われているため(7)、リズム刺激の間隔(タイミング)は、聞き手に「リズム」を認識させるうえで重要な要素だと考えられます。

例えば、スクワットのような上下運動を伴うエクササイズを指導する際の、動作を誘導する声かけを考えてみます(下図)。

「4カウントで降ろして」、「4カウントで挙げる」というように、数を数えて4点でリズムを取る、もしくは動作を表す動詞でカウントを取るようにして(『さ・げ・て』など)3点でリズムを取るような方法は、聞き手に「リズム」を認識させやすい声かけと言えます。

一方、「降ろす」動作と「挙げる」動作を明確に伝えるために、それぞれの動作開始時に、『下げて』、『挙げて』という声かけをすることも多いのではないでしょうか。しかしここで、先に挙げた“刺激の間隔”を考えてみると、このような2点でリズムを取るような声かけだと、刺激の間隔が長く「リズム」とは認識しにくいかもしれません。

もちろん、リズムを想起させるために、『下げて』、『挙げて』と声をかけているとは限りませんが、動詞による声かけに限らず、カウントの取り方ひとつ取っても、“声かけ”の方法にまで気を配るということは、動作の再現性を高めることにおいて重要な指導テクニックであると言えるでしょう。

オノマトペとリズム

上で挙げた中にあるように、動作を表す動詞(外的集中の一つ)をリズムに乗せて表現することで、「数字」を用いずとも、リズムを想起することができるはずです。数字ではなく、「動詞」を用いてリズムを取ることの利点としては、「動作のポイント」と「動作の時間感覚(動作速度)」を同時に想起させることができる点です。

そしてこのことは、動詞を修飾するためのオノマトペを用いる際に、無意識に表現されていることでもあります。

これこそ長嶋さんに顕著にみることができますが、同じ「擬音」であっても、その“言い方”によって様々な運動の時間感覚を聞き手にイメージさせることができます。

「運動のイメージ」と「音のイメージ」、さらには「速度のイメージ」を同時に表現できるオノマトペは、よりシンプルに、かつ必要な情報を短い言葉で表現できる最適なツールなのかもしれません。

様々な角度から運動のイメージを想起させることは、ミクロな部分(実際の繰り返しの動作)においても、マクロな部分(長期的な運動の再現)においても、選手やクライアントが自ら考え、運動を自動化することにつながると言えるでしょう。

まとめ: 外的集中と内的集中

運動指導において、指導者の“声かけ”は実践者にとって重要な外部情報の1つです。その中でも、身体の外部や全体像をイメージさせるような「External focus: 外的集中」を促す“声かけ”によって、スキルの習得をより確実にすることができます。

このような声かけに従って運動を行う実践者は、教示によって与えられたイメージを目指して身体を動かしていきます。この時、彼らの頭の中では「この形を目指したら(外部/結果)、身体がこう動いた(内部:過程)」というプロセスをたどっていると考えられます。

この、“トップダウン”による身体運動の表現においては、目指した外部イメージだけでなく、内部の動作過程(「股関節を深く曲げて、膝を高く上げて」など=Internal)も“結果的に”正しいプロセスを踏んでいることが多いです。聴覚情報に限らず、視覚的にとらえた情報を具体化できる人や、別の動きに当てはめることができる人もそうでしょう。

ここからは私の経験に基づいた思考になってしまいますが、

このように自らイメージを具体化できる人の多くは、運動のプロセスを逆算し、内的集中: Internal focusからも運動を遂行することができるようになると思っています。この、「結果」と「過程」の両方から運動をイメージできるということは、その人がスキルの習得にあたって何かつまずいたとき、大きな手助けになってくれます。

「このイメージでやっても上手くいかないってことは、ここをもっとこう動かせばいいんじゃないか(外部→内部)」、「ここを動かしてもしっくりこないから、あれをイメージしてやってみよう(内部→外部)」とか。

こうして、自ら考えられる運動実践者を作り出すことが我々のゴールです。我々はそこに少しの“きっかけ”を与えるだけでいい。我々に依存させるのではなく、実践者自身の頭で自動化されなければ、その指導に意味はありません。

教示は、多くの場合、“そのままの形”で選手やクライアントの頭に残ります

「○○筋の収縮を~」とか「股関節を~」とか「内旋させて~」と常に言っていれば、その人が運動を実践するときには、わからずともその専門用語をイメージすることでしょう。

逆に、外的集中を用いてイメージを適度に与え続けていれば、指導者から離れた場所でもその普遍的なイメージを動作のゴールとして想起させられると言うことができます。

この、我々の“声かけ”1つに始まるイメージの定着が、合目的的で長期的、さらに自発的な運動の実践につながると思っています。

“その場だけ”で終わらない指導を行っていくために、オンラインが気付かせてくれたことでした。


  1. Winkelman, N. C. Attentional Focus and Cueing for Speed Development. Strength Cond. J. 40, 13–25 (2018).
  2. Wulf, G., Shea, C. & Lewthwaite, R. Motor skill learning and performance: A review of influential factors. Med. Educ. 44, 75–84 (2010).
  3. Benjaminse, A., Welling, W., Otten, B. & Gokeler, A. Transfer of improved movement technique after receiving verbal external focus and video instruction. Knee Surgery, Sport. Traumatol. Arthrosc. 26, 955–962 (2018).
  4. Christos, A., Nicholas, G., Justin, K. & Will, H. Acute effects of verbal feedback on upper-body performance in elite athletes. J. Strength Cond. Res. 25, 3282–3287 (2011).
  5. Fujii, S. 音楽リズム運動の生成と同期. J. Soc. Biomech. 36, 79–85 (2012).
  6. Takahashi, Y., Yamamoto, Y. & Kado, N. リズム課題を用いた研究から臨床を考える. 関西理学. 19, 42–47 (2019).
  7. Ito, M., Takahashi, Y., Kido, N. & Suzuki, T. 運動同期能力の向上に聴覚リズム刺激の間隔が及ぼす影響-つぎの刺激を予測しにくい2秒間隔の同期タッピング運動の検討-. 臨床神経生理学. 46, 561–566 (2018).

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