何とかいけるだろうと思っていたものの、やはり、一番の難関は英語でのコミュニケーションでした。
“言語”は自分のパッションだった
前の回に書いたように、日常生活で不自由することはあまりないのですが、スポーツという流動的でより“人間的”なコミュニティーの中で、信頼関係を築き、さらにコーチングをするということは、私にとって簡単なことではありませんでした。
我々S&Cの指導の中で、コミュニケーション、インストラクション、コーチング言語は核となるものです。我々の言葉一つ一つがアスリートの思考や注意を導き、適切な動作や心理的な状況を作る。
私は個人的にもこのような、“我々の言葉(あるいは態度・振る舞い)が、アスリートにどのような行動変容をもたらすのか”ということは、特に関心のあるトピックであり、まさに現場に立つうえでの大きな“Passion”の一つでした。
エクササイズの種類や意図、目的によって我々の“言葉”を変える、またそれだけでなく、アスリートの身体的、心理的状態、そして“人間”によって与える“言葉”を変化させる。そうやって、「人間」を「変える」ために言葉を選び操作していくことは、重要なコーチングテクニックの一つであり、我々の“ハードスキル”の効果を大きく左右し得るものだと信じていました。
このような、自分の言葉、態度、振る舞いによって目の前のアスリートやチームとの間の雰囲気を変えようとする試みは、間違いなく私が力を入れてきたことです。
“言語の制限”が意味したこと
しかし、
それが途端にできなくなった。
リードコーチの指導に慣れている選手たちは、エクササイズの名前を言えば自分たちでほぼ理解して“こなす”ことができる状態でした。
ただ、エクササイズをただ“こなす”だけでなく、そのセッション、その日、その週の目的に合ったキューイングや、動きの意図、意識のポイントをコーチたちが伝えることで、セッションのクオリティは格段に上がることは言うまでもありません。
コーチを差別化できるポイントの一つがそういったエクササイズ処方“+α”のところだと思っていますし、私の場合、うまく例えを使ったり、オノマトペを多用してみたり、こちらの工夫によって、選手に“おっ”と思わせることを毎セッションの目標としていました。
しかし、自分がこれまで母国語で行っていたテンポ間、咄嗟の一声、臨機応変な声掛けが、私の今の言語力ではほぼ再現することができないということに、すぐに気付きました。
そのような咄嗟の声掛けをしたいタイミングで、いつもいつも「これってどう言えばいいんだっけ?」、「こういう風に言ったら伝わるのか?」と頭の中で考えている時間が嫌で嫌で仕方がなかった。そして仕舞いには、考えた上で言った一声が理解されず、「何?もう一回言って?」と言われることも何度もありました。
私がしたかった声掛けは、“もう一回”言って咀嚼して理解させるようなことではなく、自然と“スッと”頭に入っていくような、身体が勝手にその言葉に沿って導かれていくような声掛けなんです。残念ながらその声掛けを「もう一回」する意味などないんです。
悔しくて、あらゆるエクササイズ、あらゆるシチュエーションで使えそうなフレーズを書き出して覚えたりもしましたが、それでもなんか違う。この“咄嗟感”を自然にできるようになるにはもちろん時間がかかるのはわかっていますが(何カ月というよりも年単位でしょう...)、現場に立っている以上、立場がインターンだとしても、選手に余計な思考を抱かせるようなことはしたくなかった、Seamlessなセッションを提供したかった。
そんな場違いなプライドのようなものと、次第に聞き返されることを怖がるようになっていったが故に(言語学習者あるあるなんだけども...)、気付くと、ただ「次のエクササイズ」や「何セット」、「何回」など、プログラムを見れば誰にでもわかるようなことだけを言っていました。
100%を出せない虚しさ
プログラムを“読む”だけの自分に苛立ちとストレスしか感じなかった。
実際、他のインターンたちが、そのような“+α”の声掛けを行っていたかと言えばそうではないのですが、「本当はもっとリソース持ってるけど、それを英語で表現できないだけなんだ!」ということを周りにわからせたい、というただのエゴが、さらに自分を追い詰めていきました。
もっとできるのに、もっといい声かけがあるのに。言えない。言葉が出てこない。
プログラムを“読む”ことは、私にとってはセッション中何もせずただ突っ立ってることと変わりありませんでした。
あの感情は何と表せばよいのかわかりませんが、「自分ここで何やってんだろ。」と思ってしまう度に、何だか虚しくてセッション中に泣きそうになることもありました。
周りがどれだけ「お前はよくやってるよ」と言ってきても、自分に響くことはありませんでした。本当の自分、100%の自分をも出せない環境が、本当に苦しかった。
(続く:インターン③)
[…] 一体何がStressfulだったのか… (続く:インターン②) […]
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